コメ農家の撤退は「過去最多ペース」なのか ── 倒産・廃業の後、田んぼはどこへ行くのか

株式会社日本財務戦略センター|独自調査|2026年9月25日公開

コメ農家の撤退は「過去最多ペース」なのか ── 倒産・廃業の後、田んぼはどこへ行くのか

帝国データバンクの発表、国税庁の法人番号データ、農林水産省の統計を突き合わせると、撤退の件数は同じ時期で見ると前年並みで、農家が減っても田んぼの多くは耕され続け、大きな担い手に集まっていました。

2026年9月21日、共同通信は「コメ農家の撤退、過去最多ペース 1〜8月の倒産・廃業32件」と配信し、全国の地方紙に載りました。米の値段が上がって下がり、秋の概算金(JAが農家に先に払う仮渡金)も前年から2〜4割下がった年です。見出しだけを読むと、米づくりが崩れ始めたように見えます。

日本財務戦略センターは、この記事のもとになった帝国データバンクの発表と、国税庁の法人番号データ、農林水産省の統計を突き合わせました。確かめたかったのは二つです。撤退は本当に過去最多の勢いなのか。そして、撤退した農家の田んぼはその後どうなっているのか。

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記事のもとになった数字

配信記事の数字は、帝国データバンクが9月6日に出した「『米作農業』の休廃業解散・倒産動向(2026年1-8月)」によるものです。1〜8月に廃業28件、負債1,000万円以上の倒産4件、計32件。対象は農業法人と、比較的大きく取引をしている個人の農家で、小さな農家や兼業農家は入っていません。

同じ発表のグラフから年ごとの件数を読み取ると、次のようになります。

年1〜8月年間
2021約2027
2022約2129
2023約3035
2024約3442
20253342
202632―

※2025年と2026年の1〜8月は発表本文の値、それ以外はグラフの棒の高さから読んだ概数です。

増えているのは確かです。2020年の19件から、2024年と2025年は42件になりました。ただ、同じ1〜8月で比べると、2024年が約34件、2025年が33件、2026年が32件で、わずかに減っています。

「過去最多ペース」は、年間の最多(42件)と比べた言い方です。最多を更新するには9〜12月に11件以上が必要ですが、直近3年の9〜12月は5〜9件でした。例年どおりなら40〜41件で、42件には届きません。帝国データバンクの本文も「更新する可能性がある」という書き方で、言い切ってはいません。見出しは少し強い、というのが数字から言えることです。

法人の閉鎖で見ると、ゆるやかに増えている

帝国データバンクの集計は、同社が把握した企業に限られます。そこで、国税庁の法人番号データで、社名に農園・農場・ファーム・営農・農事組合法人などを含む法人のうち、清算を終えて閉じたもの(清算結了)を年ごとに数えました。JAや農業共済組合など、農家ではない団体は除いています。

年農業法人の清算結了うち社名に米・稲・穀を含む新潟県
20162943610
2017298517
20183163811
20193135114
2020347418
20213254010
20222973612
20233523015
20243294210
20253634315
農業法人の清算結了と合併の件数(2016〜2025年)
図1 農業法人の清算結了と合併の件数(2016〜2025年)(クリックで拡大)出典:国税庁 法人番号公表サイト 全件データ(2026年4月30日更新分)を日本財務戦略センターが集計

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農業法人全体では、2016〜2019年の平均305社から、2023〜2025年の平均348社へ、1割あまり増えています。2025年の363社は、この10年で最も多い数です。2026年も1〜4月で110社と、同じ時期としては10年で最多でした(これまでの最多は2019年の108社)。

ただし、農業法人そのものも増えています。農林業センサスでは、法人の農業経営体は2015年の2万7千から2025年の3万4千へ増えました。母数が増えた分を割り引くと、閉鎖の割合はほぼ横ばいとも読めます。また、社名で米づくりの法人を拾う方法は粗く、米に限った数は年30〜51社の幅で上下しているだけで、はっきりした増加は見えません。

法人の清算は、解散を決めてから最低2か月、債権者への公告の期間を置いて登記されます。2026年1〜4月に清算を終えた法人の多くは、2025年の秋以降に解散を決めたことになります。帝国データバンクによると、2025年度に増益だった米作農業の事業者は77.8%で、過去20年で最も高い割合でした。廃業した事業者の代表者の平均年齢は70代後半です。値段が良かった年を区切りに、高齢の経営者が事業を閉じている。数字はこの見方と食い違いません。利益が出ているうちに閉じるのは、経営の判断として理にかなっています。

撤退した法人の9割は、自分で清算している

閉じ方にも偏りがあります。2015年から2026年4月までに、合併で消えた農業法人は396社でした。同じ期間に清算で閉じた法人は約3,500社です。法人番号の記録で見る限り、閉じた農業法人のおよそ9割は清算で、合併でほかの法人に引き継がれたのは1割ほどです。ただし、事業譲渡や株式譲渡は法人番号の記録に出てきません。事業を譲り渡したあとに清算した法人も、この9割に含まれます。

合併で引き継いだ側を見ると、社名に農業の語が入っていない会社が68%を占めました。建設会社や食品会社、鶏卵の会社などです。ただし、その多くは親会社が自社の農業子会社を吸収した社内の再編とみられ、第三者に渡ったかどうかまでは法人番号データでは判りません。引き継いだ会社の74%は同じ県、55%は同じ市区町村にありました。

田んぼの多くは耕され続け、大きな担い手に集まっている

法人が閉じても、田んぼがそのままなくなるわけではありません。一つひとつの田んぼの行き先までは統計で追えませんが、農林水産省の統計で全体の動きを確かめました。

農業を営む経営体は、2015年の137万7千から、2020年に107万6千、2025年に83万6千へ減りました。5年で2割あまりが姿を消しています。一方で、耕地面積は2025年に423万9千ヘクタールで、前年からの減少は0.8%でした。経営体が減る速さと比べると、田畑はほとんど残っています。

残った田畑を耕しているのは、規模の大きな経営体です。

指標201520202025
1経営体あたりの経営耕地2.5ha3.1ha3.6ha
20ha以上の経営体が耕す面積の割合37.5%44.3%49.7%
水稲を15ha以上作る経営体9千1万2千1万4千
農業経営体数と、20ha以上の経営体が耕す面積の割合(2015・2020・2025年)
図2 農業経営体数と、20ha以上の経営体が耕す面積の割合(2015・2020・2025年)(クリックで拡大)出典:農林水産省「2025年農林業センサス報告書 調査結果の概要」(確定値)

都府県では、2020年から2025年にかけて10ヘクタール未満の層がどれも減り、10ヘクタール以上の層がどれも増えました。100ヘクタール以上の層は22.3%増えています。

受け渡しの窓口になっているのが、各都道府県の農地中間管理機構(農地バンク)です。担い手が耕す農地の割合(集積率)は、2013年度の50.3%から2025年度には62.1%になりました。2013年度から担い手に集まった42万6千ヘクタールのうち、6割にあたる25万9千ヘクタールが農地バンクを通っています。新潟県の集積率は68.1%で、全国より高い水準です(前年度の68.3%からはわずかに下がりました)。

耕されずに荒れた農地も、増えてはいません。荒廃農地は2008年から25万〜29万ヘクタールの間で推移し、2024年は25万7千ヘクタールでした。経営体が5年で2割減っても、荒れ地は広がっていないのです。

規模が大きいほど、1俵あたりの費用は下がる

集約が進むと何が変わるのか。農林水産省の米の生産費統計(2024年産)で、60キロ(1俵)を作るのにかかる費用を作付けの規模別に並べます。自家の労働や自分の土地の地代も費用に含めた数字です。

作付規模60kgあたりの費用
0.5ha未満27,217円
1〜3ha17,781円
5〜10ha13,749円
10〜15ha12,188円
50ha以上9,978円
米60kgあたりの生産費(作付規模別・2024年産)
図3 米60kgあたりの生産費(作付規模別・2024年産)(クリックで拡大)出典:農林水産省「農産物生産費統計 令和6年産 米生産費」表3-1(資本利子・地代全額算入生産費)

最も小さい層は、最も大きい層の2.7倍の費用で米を作っています。差の大半は人手の費用で、1俵あたりの労働費は0.5ヘクタール未満で8,774円、50ヘクタール以上で2,096円でした。同じ田んぼを、より少ない費用で作れる担い手が耕すようになっている。撤退の数字の裏側では、こうした置き換えが進んでいます。

国の財政の面でも、この流れは意味を持ちます。財務省の財政制度等審議会の資料によると、米・麦・大豆など田畑で作る作物への国の支出は2023年度で5,842億円でした。中心となる「水田活用の直接支払交付金」は作付けした面積に応じて払われ、財務省自身が「生産性を高めるインセンティブが存在しない」と指摘しています。今の仕組みのままでは、効率が上がっても補助金は自動的には減りません。

ただ、国は2025年4月に閣議決定した食料・農業・農村基本計画で、この交付金を2027年度から「作物ごとの生産性向上等への支援」に切り替える方針を示しました。2030年の目標は、15ヘクタール以上の経営で1俵9,500円です(2023年は11,350円)。作る費用が下がれば、価格が下がっても採算が合う水準が下がり、支える側の負担も軽くできます。生産量や所得が増えれば、わずかながら税収にも返ってきます。

一方で、消費者が得をするとまでは言えません。店頭の米の値段は流通と需給で決まり、2024年から2025年にかけての値上がりは、作る側の費用とは別の理由で起きました。確かなのは、値段が大きく動いたときに持ちこたえられる担い手が増えていることです。

閉じるだけでなく、渡すという選び方

利益が出ている年は、事業に値段が付く年でもあります。清算して機械を売り、借りていた田んぼを地主に返すほかに、事業ごと引き継いでもらう道もあります。法人の記録で見る限り、合併という形で引き継がれたのは閉じた法人の1割ほどにとどまります。

ただし、農業法人の引き継ぎには、ふつうの会社にはない制約があります。農地を所有できる法人(農地所有適格法人)は、農地法第2条第3項で、議決権の過半を農業関係者が持つことなどが求められます。この要件から外れると、同法第7条により、その法人が所有する農地は国が買い取ることになります。農業をしない会社が株式の過半を買うと、この条文に当たります。

引き継ぎ方を考えるうえで、もう一つ大事なのが借りている田んぼの扱いです。農業経営体が耕す田畑の44%は借りた土地です(2025年センサス、1経営体あたり3.6ヘクタールのうち1.6ヘクタール)。農業法人の価値の多くは、地主から借りている田んぼの権利にあります。裏を返せば、田畑の4割あまりの持ち主は、もう自分では耕さずに貸す側に回っているということです。土地を持つ人と耕す人は、すでにかなりの部分で分かれています。

この借地権は、引き継ぎの形によって扱いが大きく変わります。事業譲渡は、財産や契約を一つずつ移す取引です。借りている田んぼを移すには、地主一人ひとりの承諾(民法第612条)と、農地法第3条の許可が要ります。地主が数十人いれば、その数だけ同意を集めることになります。

合併は違います。会社法上、消滅する法人の権利義務は存続する法人がまとめて引き継ぐため、賃借権も地主の個別の承諾なしに移るのが原則です。農地法でも、法人の合併は権利を移すための行為ではないとして第3条の許可は要らず、農業委員会への届出で足ります。借地の多い農業法人どうしであれば、合併が最も手間の少ない形です。ただし、賃貸借の契約書に「合併のときは貸主の承諾が要る」といった条項があれば、それに従います。

形借りている田んぼ所有している農地向いている場面
合併地主の個別の承諾なしに引き継ぐのが原則。農地法の許可は不要で届出存続する法人が農地所有適格法人なら、そのまま引き継ぐ借地の多い農業法人どうし。借入金などもまとめて引き継ぐ点には注意
事業譲渡地主一人ひとりの承諾と農地法第3条の許可が要る。農地バンクを通して貸し借りを付け替える方法もある許可を得て移す売り手が個人の農家の場合や、引き継ぐ財産と借入を選びたい場合
株式譲渡法人がそのまま借り続ける法人に残るが、農業をしない会社は議決権の過半を持てない一部だけ資本を入れる。認定農業者の計画に買い手を関連事業者として載せると、議決権の数え方に特例がある(農業経営基盤強化促進法第14条の2)
農地を借りる形での参入買い手が新たに借りる所有はしない農業法人でない会社でも、借りて耕すことは許可される(農地法第3条第3項)

どの形が実際に多いのかは、公的な統計では数えられません。法人番号に残るのは合併だけで、事業譲渡や株式譲渡は記録に出てこないためです。ここで言えるのは、借地の比重が大きい農業では、法人どうしなら合併、売り手が個人の農家なら事業譲渡か農地バンクを通した付け替え、という分かれ方になりやすいということです。

新潟県の数字

米どころの新潟県では、社名から拾った農業法人の清算結了は年7〜15社で、2025年は15社でした。2026年1〜4月は7社で、同じ時期としては10年で最も多い数です。ただ、もともとの件数が小さいため、1〜2社の差で順位が入れ替わります。集積率は68.1%と全国平均より高く、担い手への集約は全国に先んじて進んでいます。

まとめ

2026年のコメ農家の撤退は、増えてはいても、同じ時期で比べれば前の2年とほぼ同じ水準です。「過去最多ペース」は、年間の最多と比べた見出しの言い方でした。法人の清算はこの10年でゆるやかに増え、値段が良かった年の後に高齢の経営者が区切りをつける動きとも矛盾しません。

そして、農家が減っても、田んぼの多くは耕され続けています。経営体が5年で2割減っても耕地の減少は年0.8%にとどまり、20ヘクタール以上の経営体が耕す面積は5割に達しました。1俵あたりの費用は、規模が大きくなるほど下がります。撤退の件数だけを見ると崩れているように見えますが、田んぼの側から見ると、起きているのは担い手への集約です。

法人の記録で見ると、閉じた農業法人の9割は清算でした。利益が出ている年であれば、事業を渡すという選び方もあります。

よくある質問

Q. コメ農家の撤退は、本当に過去最多のペースですか。

帝国データバンクの集計では、2026年1〜8月の倒産・廃業は32件で、同じ期間の2024年(約34件)と2025年(33件)をわずかに下回っています。「過去最多ペース」は年間の最多42件と比べた言い方で、最多を更新するには9〜12月に11件以上が必要です。直近3年の9〜12月は5〜9件でした。

Q. 撤退した農家の田んぼは、耕作放棄地になっていますか。

全体としては増えていません。荒廃農地は2008年から25万〜29万ヘクタールの間で推移し、2024年は25万7千ヘクタールでした。農業経営体は2020年から2025年に22.3%減りましたが、耕地面積の減少は年0.8%程度で、20ヘクタール以上の経営体が耕す面積の割合は49.7%に上がりました。

Q. 農業法人を第三者に引き継ぐことはできますか。

できます。ただし農地を所有する法人は、農地法第2条第3項により議決権の過半を農業関係者が持つ必要があり、要件を外れると同法第7条で所有農地が国の買収の対象になります。そのため、農業関係者でない会社が株式の過半を買う形は取れません。合併、事業譲渡、一部の出資、農地を借りる形での参入のいずれかになります。

Q. 借りている田んぼが多い農業法人は、どの形で引き継ぐのがよいですか。

法人どうしであれば合併が手間の少ない形です。合併では権利義務がまとめて引き継がれるため、賃借権も地主の個別の承諾なしに移るのが原則で、農地法第3条の許可も要らず届出で足ります。事業譲渡では、地主一人ひとりの承諾と農地法第3条の許可が必要です。契約書に合併時の承諾条項がある場合はそれに従います。

Q. 規模が大きいほど、米は安く作れますか。

農林水産省の生産費統計(2024年産)では、60キロあたりの全算入生産費は0.5ヘクタール未満で27,217円、50ヘクタール以上で9,978円でした。差の大半は労働費です。ただし店頭の米の値段は流通と需給で決まるため、生産費の低下がそのまま小売価格に表れるとは限りません。

調べ方

【引用・転載について】
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※ JFSCが集計・加工・分析した結果(集計値・集計表・図表・指標・分析と見解)は、この条件で引用いただけます。他機関(官公庁・調査会社など)が公表した数値や文章そのものは、それぞれの元資料の利用条件に従ってください。

出典

五十嵐悠一
監修・執筆責任者
株式会社日本財務戦略センター 代表取締役。京都大学経済学部経営学科(マーケティングゼミ専攻)卒。損害保険ジャパン本店営業部(企業リスク・法務)を経て、東証上場M&A仲介会社にて多数の成約に従事。2020年に株式会社日本財務戦略センターを創業し、M&A・事業承継・財務戦略を専門としています。日本CFO協会認定 プロフェッショナルCFO M&Aエキスパート/中小企業庁 M&A支援機関登録事業者/一般社団法人M&A支援機関協会 正会員/中小M&Aガイドライン第3版 遵守宣言済です。

この記事は公的な統計と法人番号データを集計したものであり、特定の農家や法人についての評価ではありません。法人番号データの件数は社名で抽出した概数で、帝国データバンクの年次件数は同社の発表資料のグラフから読み取った概数です。法令の説明は一般的な整理であり、個別の取引では契約内容や農業委員会の判断によって扱いが異なることがあります。具体的な手続きは、弁護士・司法書士・行政書士などの専門家や農業委員会にご確認ください。
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