会社を高く売るには? 会社の価値を正しく伝えるために

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公開日:2023年5月15日 /最終更新日:2023年5月15日

会社を高く売るには

「会社を高く売る」といういい方はストレートすぎるかもしれません。
ただM&Aが成功したという納得感を得るためには、売り手が譲渡企業の価値を適切に買い手に伝え双方が満足できる価格で取引が成立することが必要ではないでしょうか。
M&Aは相対取引であり、一物一価であることから、価格は単に会計的に算出される数字だけで決まるものではないからです。
買い手企業は、売り手企業の将来的な収益性や成長性、競争力やシナジー効果など企業の様々な要素だけではなく売り手自信を評価して価値を算定します。
そのため売り手は自社の魅力や強みをアピールすることで自社の評価を高め、より納得感がある交渉ができるようになるでしょう。

では、具体的にどのようなことをすればよいのでしょうか?ここでは、売り手企業が会社を高く売るために取り組むべき3つのポイントを紹介します。

1. 事前準備をしっかり行う

売り手はM&Aのタイミングや目的を明確にし、自社の強みや弱みを把握し、財務や法務などの整理を事前に行うことでスムースな対応ができるようになります。
また買い手企業に対して提供する資料や情報も準備しておくことも重要です。
これらの事前準備は、買い手企業に対して自社の信頼性や透明性を高めるとともに、交渉やデューデリジェンス(買収対象会社の調査)のスムーズさやスピードに影響します。
事前準備が不十分だと、適時な対応ができず買い手企業から不信感や疑問を持たれたり、適切な説明ができず価格交渉で不利になったりするリスクが高まります。
何より自分自身で会社の価値や魅力を把握しておくことできちんと情報を伝え、先方からのフィードバックに対しても適切な交渉を行うことが可能になります。

では、具体的にどのような事前準備をすべきなのでしょうか?
ここでは、売り手企業が行うべき4つの事前準備について説明します。

1-1. M&Aのタイミングや目的を明確にする

M&Aは売り手自身ではなく、事業や経営に大きな影響を及ぼす重要な決断です。
そのためまずはM&Aを行う理由や目的を明確にすることが必要です。
M&Aの目的は事業拡大や多角化、競争力強化やシナジー創出、後継者不在や資金調達など様々ですが、自社の現状や将来像と照らし合わせて、M&Aが最適な選択肢であるかどうかを検討する必要があります。
場合によってはM&Aを行わなくてもいい可能性があるからです。

またM&Aの目的に応じて、自社が求める買い手企業の条件や特徴も明確にすることが重要です。
例えば事業拡大や多角化を目指す場合は、自社と異なる業種や地域に強みを持つ買い手企業を探すことが望ましいでしょう。
一方、競争力強化やシナジー創出を目指す場合は、自社と同じ業種や地域で補完性や相乗効果が期待できる買い手企業を探すことが望ましいでしょう。

M&Aのタイミングも重要です。
M&Aは市場環境や経済情勢など外部要因だけでなく、自社の経営状況や財務状況など内部要因にも左右されます。
そのため自社の売却価値が最大化されるタイミングを見極めることが必要です。
一般的には、自社の収益性や成長性が高く、市場需要も旺盛である場合は売却価値が最大化されるタイミングを見極めることが必要です。
逆に自社の収益性や成長性が低下し、市場需要も減退している場合は売却価値が低下します。
また自社の財務状況も重要です。
負債が多く資金繰りに困っている場合は、買い手企業から安く買い叩かれる可能性が高まります。
逆に負債が少なく資金繰りに余裕がある場合は、買い手企業から高く評価される可能性が高まります。
したがって、M&Aのタイミングや目的を明確にすることで、自社の売却価値を最大限に引き出すことができます。

1-2. 自社の強みや弱みを把握する

M&Aでは買い手企業は売り手企業の価値を評価するために、様々な観点から分析や調査を行います。
そのため売り手企業は、自社の強みや弱みを客観的に把握し、買い手企業に対してアピールすることが必要です。
自社の強みや弱みを把握するためには、以下のような方法があります。

  • SWOT分析:自社のStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threats(脅威)を分析する方法です。
    自社の内部要因と外部要因を整理し、自社の競争力や成長戦略を明確にすることができます。
  • ベンチマーキング:自社と競合他社や業界平均などを比較する方法です。
    自社の優位性や劣位性を客観的に評価し、改善点や差別化点を見つけることができます。
  • バリュー・チェーン分析:自社の事業活動を価値創造プロセスとして分解し、各プロセスで発生するコストや付加価値を分析する方法です。
    自社のコスト構造や利益源を明らかにし、効率化や付加価値向上の可能性を探ることができます。

これらの方法を用いて、自社の強みや弱みを把握することで、買い手企業に対して自社の魅力やポテンシャルをアピールすることができます。
特にDCF法(割引キャッシュフロー法とも)と呼ばれる将来のキャッシュフローを現在価値に換算して合計する企業価値の計算方法ではこの将来予測が重要になるため、根拠をきちんと説明する必要があるからです。
また自社の弱みや課題も正直に伝えることで、買い手企業との信頼関係を築くこともできます。

1-3. 財務や法務などの整理を行う

M&Aでは買い手企業は売り手企業の財務状況や法務状況などを詳細にチェックします。
そのため、売り手企業は、以下の通り財務や法務などの整理を行う必要があります。

  • 財務諸表の作成や精査:自社の収益性や資産状況、キャッシュフロー状況などを正確に反映した財務諸表を作成し、監査法人などの第三者機関による精査を受けることです。
    財務諸表は、買い手企業が売り手企業の価値を評価するための重要な資料です。そのため、財務諸表は信頼性が高く、分かりやすく、比較可能であることが望ましいです。
    もちろん中小企業の場合、会計的な観点で財務諸表の作成は行っていないこともあるでしょうからその際は後述するよう、アドバイザーに相談することも必要でしょう。
  • 負債やリスクの洗い出しと対策:自社が抱える負債やリスクを洗い出し、その内容や規模、影響度などを明確にすることです。
    負債やリスクとは、例えば借入金や保証債務、訴訟や紛争、契約上の制約や義務、税務上の問題などです。
    負債やリスクは、買い手企業が売り手企業の価値を減額する要因となります。
    そのため負債やリスクをできるだけ減らすか、あるいは適切に開示することが必要です。
    特に後述する資産についてもそうですが、説明が難しい資産や債務が計上されている場合、最終的に価格で調整するにしても、事後で説明することで不信感を与えてしまいます。
    そのようなことを避けるために事前にオフバランスを行うか、オフバランスが間に合わない場合、自信で事前に把握し、説明を行うことがとても重要です。
  • 資産や権利の確認と保護:自社が保有する資産や権利を確認し、その有効性や正当性を担保することです。
    資産や権利とは、例えば、土地や建物、機器や在庫、特許や商標、ノウハウや顧客などです。
    資産や権利は、買い手企業が売り手企業の価値を高める要因となります。
    そのため、資産や権利を適切に管理し、他者からの侵害や流出を防ぐことが必要です。
    また中小企業の場合、簿価で計上されていることが多いため、時価の算出及びその根拠を示すことで納得感のある交渉ができることになるでしょう。
    特に不動産の場合は不動産鑑定士などいれて事前に説明できるようにすることが必要です。

これらの整理を行うことで、自社の財務状況や法務状況を正しく把握し、買い手企業に対して安心感や信頼感を与えることができます。

1-4. 資料や情報の準備を行う

M&Aでは、買い手企業は売り手企業に対して様々な資料や情報を求めます。
そのため売り手企業は、事前に資料や情報の準備・作成を行うことが必要です。
資料や情報の準備とは、以下のようなことを指します。

  • ティーザー(売り手企業の概要)の作成:ノンネームシートとも言います。
    自社の事業内容や規模、市場環境、財務概要などを簡潔にまとめた資料です。
    ティーザーは、買い手企業に対して自社の魅力やポテンシャルをアピールするための重要な資料です。
    そのため、ティーザーは分かりやすく、興味を引くように作成することが必要です。
    ただしこの段階では秘密保持契約が締結されないことも多いので、企業が特定されるような情報まで記載することは止めておいておいた方がいいでしょう。
  • 企業概要書の作成:自社が買い手企業に対して開示する資料や情報の一覧です。
    情報公開リストは、買い手企業が売り手企業の価値を評価するために必要な資料や情報を確認するための重要な資料です。
    そのため、情報公開リストは詳細で、包括的であることが必要です。
  • 機密保持契約(NDA)の締結:自社が買い手企業に対して開示する資料や情報が機密であることを認めさせ、その漏洩や悪用を防止するための契約です。
    NDAは自社の機密情報を保護するための重要な契約です。
    「会社が売られている」という話が出回ってしまったら取引先や従業員に不安感が出るでしょうし、「出回り」と思われてしまえばそれだけで価値を棄損する可能性があるからです。
    そのためNDAは明確で、厳格であることが必要です。
  • データルームの設置:自社が買い手企業に対して開示する資料や情報を保管し、閲覧やダウンロードを可能にする仮想的な空間です。
    データルームは買い手企業が売り手企業の価値を評価するために必要な資料や情報を効率的に提供するための売り手企業が提供する重要なツールです。
    そのためデータルームは安全で、使いやすいものであることが必要です。

これらの資料や情報の準備を行うことで、信頼性を保ちながら自社の価値を正しく伝えるとともに、交渉やデューデリジェンス(買収対象会社の調査)のスムーズさやスピードを向上させることができます。

以上、売り手企業が行うべき4つの事前準備について説明しました。
これらの事前準備はM&Aを成功させるために欠かせないものです。
事前準備をしっかり行うことで、自社の売却価値を最大限に引き出し、最適な買い手企業とのマッチングを図ることができます。

2. 適切な買い手企業を選ぶ

会社を高く売るためには、自社に最適な買い手企業を見つけることが大切です。
買い手企業は、自社の事業戦略や目的に応じて、M&Aの対象となる会社を探しています。
そのため売り手企業は、自社の事業内容や規模、市場環境などを考慮して、自社に興味を持ちそうな買い手企業の候補を絞り込む必要があります。
また候補者となった買い手企業との関係性や相性も重要です。
信頼関係が築けるかどうか、価値観やビジョンが合致するかどうか、業務や文化の違いによる摩擦が起きないかどうかなど、M&A後の統合や協業における課題を事前に把握しておくことが望ましいです。
買い手企業との相性が良ければ、買収価値やシナジー効果も高まりますし、M&A後のトラブルも減らすことができます。
特に譲渡後も残留するということであれば、相性を優先して探すことも重要ではないでしょうか。

3. 専門家のサポートを受ける

最後になりましたが、今まで自社あるいは売り手自身の価値を適切に評価する手段について記載してきましたがいかがでしたでしょうか。
おそらく多くの人が「こんなにやることあるの?」と思ったのではないでしょうか。
M&Aは複雑で専門的な知識や経験を要するプロセスです。
弊社のようなM&A仲介会社が存在するのは、まさにこう言ったプロセスや相手方の探索をお手伝いすることに対する強いニーズがあるからです。
売り手企業は自社の経営資源や時間を有効に活用するためにも、M&Aに関する専門家のサポートを受けることを検討したほうが結果的に納得感のある交渉ができるのではないでしょうか。
弊社は自社の魅力や強みを最大限に引き出すための戦略立案や資料作成、買い手企業の探索や交渉、デューデリジェンスや契約書作成など、M&Aに関する様々な業務をサポートします。
また自社にとって納得感のある条件や価格でM&Aを成立させるためにも必要な第三者的な視点や客観的な意見を提供いたします。

以上、売り手企業が会社を高く売るために取り組むべき3つのポイントを紹介しました。
多くの人が一度きりとなる会社の売却、ぜひ納得感のある取引が出るようお手伝いさせていただければ幸甚です。

お悩みの方は是非お気軽に弊社までお問い合わせください。

 

参考文献:
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2022/220707shoukei.html
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2021/chusho/b2_3_2.html
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2021/210802m_and_a.html
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouei/02zaisei06_03000041.html

ご参考:

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