資金繰りと私的整理を考えるタイミング

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公開日:2021年10月15日 /最終更新日:2021年10月15日

資金繰りを把握する必要性

多くの中小企業で精緻な資金繰り表を作成しているところは少ない印象を受けています。
会社が順調に売り上げを拡大し、売掛金の回収など問題なければ資金繰り表を作成する必要を感じないかもしれませんが、売上が減少し、長期間にわたり現預金の入金よりも出金が多くなってしまう状態が継続することで、資金ショートを起こしてしまう可能性があります。
また順調に売り上げが推移していても、突発的な事象(取引先の倒産や事故)により大きな支出が発生してしまい、資金に大きな影響を与えてしまう可能性があります。
このようなことを避けるために資金繰り表を作成することで、どういう現預金の出入りが発生しているかを見極め、現預金をどの程度確保していたらいいのかを想定し、資金効率を高めることができます。
また現預金がショートしている場合はショートの原因を見極めることも容易になりますし、会社の経営がどの程度の期間もつのかという事も予測することが可能になります。

私的整理を考えるタイミング

以前書いたコラム「9/4週刊ダイヤモンド「廃業急増のウラ 倒産危険度ランキング」」は大変ご好評いただきましたので、今回は実務に沿ったコラムを書いてみたいと思います。

実務を行っていると、倒産寸前のタイミング(資金ショートの2~3ヵ月前)にM&Aのご相談をいただくことがあります。
多くのケースではコロナなどの影響により、売り上げと利益が減少し、その減った利益を補うため借入れを増やして債務超過に陥ってしまっています。
同時にいずれ売り上げが転換するだろうと見込み、金融機関が融資する限界まで借り入れを増やし、抜本的な業態転換やコストカットなどを行っておらず、借り入れができなくなったタイミングで初めて相談に来られます。
率直に言うとこのタイミングで相談に来られた場合、取り得る手段はかなり限られてきます。
(なおM&A仲介会社に門前払いされてご相談に来られるところもございますが、弊社ではきちんと取り得る手段についてご説明させていただいております)

会社を良くしようと思って経営を行っているため、最悪の判断を先送りしたくなる気持ちはよくわかるのですが、経営を行う以上、いかに自分自身や家族、会社や取引先に対してデメリットが少ない形で手仕舞うのかという事も考える必要があるでしょう。
実際、相談に来られるのが数カ月早いかどうかで、できることがだいぶ変わってくると感じたこともありました。

さて、以前のブログではM&A⇒清算の検討⇒破産というプロセスで手仕舞い方を検討するのが一番メリットがあるのではないかと記載しました。

以下、引用します。

なぜならM&Aで譲渡先が見つかれば場合によっては対価を得ることができますし、最悪でも個人保証の引継ぎなどを行うことで代表者個人から債務を切り離すというメリットがあるからです。
但し残念ながらそれで譲渡先が見つからない場合(負債が大きい、赤字解消見込みが立たないなどの理由が挙げられます)、私的整理を含む清算を検討することで、代表者(株主)個人の手元資金の確保をすることを検討したらいいのではないでしょうか。
破産は最後の手段ですが、とはいえ事業再生、個人再生などを行うことで、昔と比べて個人が再起を図りやすい制度設計になっています。
あまり悲観的にならず、冷静にどうやって会社も含め代表者が生き残っていけるのか、という事を検討すべきだと思います。

さてこれを踏まえたうえで、どの程度遡って検討を始めたらいいのでしょうか。
一般的にM&Aは半年程度かかると言われていることもあり、半年前から考えたらいいのでしょうか?
利益が出ており、対価を得るためのM&Aであれば、目標時期の半年以前から検討開始でいいと思いますし、仮にM&Aが成立しなくてもそのまま事業継続を継続しておけばいいので、特に問題ないと思います。

ただし私的整理(場合によっては法的整理)を視野に入れる場合、それではタイトすぎるでしょう。

私的整理のメリット

私的整理は破産とは異なります。
政府としては私的整理を行うことで再起を図りやすい制度設計とし、経済の円滑な循環を図ろうとしています。

さて私的整理を行うメリットは大きく分けて以下の通りです。

・会社のメリット・・・当事者間で債務整理を行うため、倒産と違って企業名が公表されない。取引先との営業は継続して続けられるため取引先に迷惑をかけない。
・個人のメリット・・・破産は個人信用情報が毀損するが、個人信用情報に載らない。破産の場合は100万円程度の現預金が残されるにとどまるが、経営者保証のガイドラインに準拠すれば数百万程度の現預金が持てる。また華美でない家に住むことができる。

等です。

「私的」なのであくまでも債権者の合意が必要になってくる話ではありますが、破産と比べて会社にとっても経営者にとってもメリットが大きいのは感じられるのではないでしょうか。

改めて、私的整理を考えるタイミングとは

私的整理については以下のような類型があります。

事業再生実務家協会による事業再生ADR
地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム
中小企業再生支援協議会による協議会スキーム
弁護士会による特定調停スキーム

それぞれ特徴がありますが、支援協議会などのスキームを利用する場合、持ち込んでから確定するまでに5~6ヵ月かかると言われており、まとまらない場合はそれ以後をどうするのかという問題も出てきます。
したがってバッファーを見て1年程度前から検討を始めるとより多くの選択肢を検討できるのではないでしょうか。

逆に1年程度余裕があるのであれば、M&Aによって譲渡を行うことも可能なので、債務の過剰感を感じたり、売上の減少が発生したタイミングでこの状況がどの程度継続するのか、継続する場合いつまで資金繰りが持つのか、という事を真剣に考えてみてもいいかもしれません。

弊社では企業法務専門の大手法律事務所と提携した企業(事業)再生サービスを行っています。
お気軽にご相談いただけましたら相談ベースでざっくばらんにお話させていただければと思います。

 

なお私的整理などに関する事業再生(企業再生)については以下のコラムも参考にしてください。

企業再生スキームとM&A
債務超過企業と企業再生(準則型私的整理編)
【事業再生】特定調停スキームとは
【事業再生】事業再生ADR制度について
地域経済活性化支援機構(REVICとは)
事業承継時の「経営者保証に関するガイドライン」の特則
「経営者保証に関するガイドライン」とは

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